- このイベントは終了しました。
modernité
4月 10日 水曜日 @ 19:00 - 20:00
modernité
4月10日(水)
19:00〜19:45
Twitch (account : noon_cafe)
Sélecteur × dresser : inoko
〜イベント概要〜
「最も個人的なものが、最も創造的だ。」by マーティン・スコセッシ
—
「Aの”視点”」
携帯がお尻ポケットで短く振動する。確認するとtwitchの通知。
アプリを開くと、ターンテーブルの前に立つ女性。
どうやらDJの配信のようだった。何度かこのチャンネルの配信は見ているが、この人の配信は見た覚えがなかった。電車の中で特にやることもなかったので、イヤホンをつけ、暇つぶしがてら傍観を決め込む。
暗闇を割く照明に晒され、揺らぐ人影はなおも怪しく、黒髪セミロングの清楚ビッチ風が靡く。
煙草を燻らせる口元にはロレアル・パリの真っ赤なルージュが引かれ、目線を顔から下にやれば、作り物のような胸、締まったウエスト、ほっそりとした脹脛、足首はもう一層キュッと細り、さらにその下には女性性の象徴とも言える紅のヒールを覗かせている。
一抹の違和感は覚えながらも、”彼女”を”女性”と認識してしまっていたし、結局のところそれで何も問題はなかった。
画面の中に映る女性は、淡々とCD用ターンテーブルの緑色のボタンを押す。
流している曲は、どれも耳馴染みのない曲ばかりだ。
Shazamするとすぐに出てきた。かなり新しい。リリース日まで見てみるとほんのひと月前くらいだ。
セレクトする曲のジャンルも色々でテンポは疎ら。かなり雑多に聞こえるが、本人は即座に次の曲を選んでいるあたりネタを喰ってきているっぽい。何か法則性があるのだろうか。
DJというのは、踊らせる曲をかけてお客を盛り上げる人のことだと思っていた。
これは果たしてDJと言えるものなのだろうか。
などと考えていると、配信はあっけなく終わった。女性は初めてサービスらしいサービスとして手を振り、画面は「ご視聴ありがとうございました」の言葉を残してブラックアウトしていく。
時計を確認する。約50分程度。短い。別の配信では2時間以上はあるのに。
すでに電車を降り、自転車に乗り換えて家路を行く途中だった。家に着くまではやっているだろうという予想を裏切られ、音のしなくなったイヤホンを無視して、自転車の足を止め、Instagramをチェックする。今日の配信の詳細が気になったからだ。目当ての投稿はすぐに見つかった。
「 modernité
4月10日(水)
19:00〜19:45
Twitch (account : noon_cafe)
Sélecteur × dresser : inoko
他者の目によって存在できる虚像の実体化をコンセプトに、
ボードレールが用いたmodernité (現代性)という言葉から着想を得て、オトコの娘が黙々と音を紡ぐ月に一度の45分。
どんな曲をセレクトするかの要素、内在平面。
【prompt】
・electro
・free jazz
・experimental
・new wave
・house
・techno
・trance
・world(Arabic、African、Chinese)
・bass
・jungle
・contemporary
・Reimported Japanese sampling
・Voice material
・Novelty
・Rhythmic complexity
・New music
・SF
・Interesting development
・Intensity
・Severity
・Slow and fast
・The beginning, the end, and the end.
・Movie soundtrack-like
・Percussionist’s point of view
・Ridiculousness
・Beauty
・Nuance
・Niche
・Abstract
・Surrealism
・Dark Butoh
を出力した、
スキゾ的ジャンル並置で縦横無尽にプロットメイキングしたセカイ系セレクト。
足下の未踏の最底辺へ、
個の醸造のテロワールの贄へ。
点滴式の水合わせのように、
滴る純血が世界を穿つまで。
現代を映す2.5次元の偶像は円環する文化の中で何故私小説を吐瀉するか。
紅を引く手に男性性の残滓が煌めいた時、何というエロティシズムが働くのか。
逆張りに次ぐ逆張りが透明人間と同等の視認性だったとした際の意義の希薄さは、魂の重さと同等か。
サンボリックのゲネシスは鏡像としてのアセファル、ないし多頭のイマーゴになり得るか。
……そんな文脈の視座で鑑賞しても面白いかもしれません。
恐怖の魅力に酔いうる者は強者のみ!
それでは、映像の中でお会いしましょう。
Instagram : @inoko_modernite 」
なるほど。そういうことだったのか!色々なことに合点がいき、膝を打った。
オトコの娘。セレクター。セカイ系。違和感の正体が判明しスッキリした。
家までもう少し。音楽でも聴いて帰ろうとプレイリストを漁っていると、突然肩を叩かれた。
振り返ると知らな、いや、知っている人がそこに立っていた。
たった今知ったばかりの、ここに存在しているはずのない人が、私に話しかけてきた。
「お姉さん。私の配信見てくれてありがとう」
終